この記事に「留学する意味・理由(=答え)」は載っていない。
ただし、
- 留学する意味を探し続け病んでいる人
- いい年齢で留学するのだから失敗は許されないと思っている人
- 留学先で毎日頑張り続け少し疲れてしまった人
が、少し肩の力を抜くことができる(かもしれない)話を紹介する。
留学する意味や理由を探す人々
Twitterやインターネットを徘徊していると「留学する意味・理由を探している人」の存在に気づく。
人数を数えたわけではないが、少数ではないことはわかった。
「留学する意味」を探している理由は様々だろうが、以下のような背景があるのだろう。
- 家族や会社を説得するに足るような立派な理由が必要だから
- 周りになんで留学するの?と聞かれた時の対策用
- 帰国後の就職活動で聞かれたら説明できるように
要は皆、留学を正当化できるような「表向きの理由」が欲しいのだ。
本当の理由は別のものだったとしても。
そんな筆者も、社会人留学中(ROワーキングホリデー使用中)。
会社を辞めるため、上司に留学をすることを伝える時は
なんて説明しよう・・・
と考えた。
理由なく留学しても責めてくるような人たちではなかったし、正当な理由がなければ退職させない!というようなブラックな職場でもなかった。
それでもなぜか「ちゃんとした理由を用意しないとだめ」だし、会社を辞めてまで留学するからには「成果を出し、何者かになる」必要があるように感じてしまっていた。
(これは自分の勝手な思い込みなのだが)
これに関連した話を一つ。
Twitterでこんな呟きをしたら、思いのほか反響を集めた。
反応して下さった方は、きっとこの種の重圧を感じてきた(or感じている)のだろう。
自分が作り出した重圧なのか、他者との関わりの中で生まれたものなのかはわからないが。
そしてこれがきっかけで、フォロワーさんから1冊の本を紹介していただいた。
(Tweet埋め込んですみません、消した方が良い時は教えてくだされ)
岸政彦さんの「断片的なものの社会学」である。
これを読んで、張り詰めていた気持ちがちょっと楽になった。
そのため、私もこのブログに辿り着いた方に紹介したいと思い、感想を書きがてら、記事にすることに決めた。
本の紹介(留学する意味に関係する話ではない)
ネタバレにならない程度に本の内容を紹介する。
最初に言っておくと、これは別に海外生活や留学に関する本ではない。
この本は、日本の社会学者である筆者が、自身の聞き取り調査現場で見聞きした「分析できないもの(エピソード)」を集めた一冊。
エピソードは、聞き取り相手の生い立ちであったり、日常であったり、調査中の小さなハプニングであったりと様々だ。
そして「分析できないもの」と言っている通り、各エピソードに結論めいたものや一般的に有益だと思われそうなことは書いていない。
ただ淡々と「できごと」を記録している。
人々の「語り」を「分析」することが重要な仕事である社会学者。
しかしその調査過程では、学者であっても到底分析も解釈もできないようなことがらに多く遭遇するそうだ。
そして本当は、それらの「分析できない」「ただそこにあるもの」「日晒しになって忘れ去られているもの」が好きなのだと筆者は言う。
たとえば、本には田舎から大阪に出てきて60年、路上ギター弾き歴20年のおっちゃんが登場する。
おっちゃんが大阪に出てギター弾きになるまでの経緯が、おっちゃんの自由な語り口で淡々と綴られる。
確かにユニークな話ではあるが、ドラマチックであるかと言ったらそうでもない。
そんないろいろな人の物語がたくさん詰まっている本。
決してドラマチックではないが、それでも、「人が何かのタイミングで一つの決断をして、人生が変化していくさま」を見ることができ、非常に面白い。
感想:留学する意味を考えていた自分に刺さった
私はこの本を読み、自分が「特別な存在、選ばれた存在」ではない「その他大勢」であることを素直に受け入れようと思えた。
自分は「モブキャラクター」「通行人A」「ドラマでは名のもらえないエキストラ」なのだ。
この本を紹介していただいた時は、ちょうど前のカレッジを辞めた頃。
せっかく何年もかけて計画し、仕事も辞め、恋人とも別れて挑んだ社会人留学。
それなのに、あまり立派ではない理由で早々に退学することになり、結構落ち込んでいた。
巷の海外移住を成功させた方々の体験談にあるように、計画的でたゆまぬ努力を続けられたわけでもなく。
壮大なドラマがあったわけでもなく。
「計画が下手くそな30代が、留学先でちょっとだけ勉強して、挫折して、辞めた」だけの話。
「輝く留学ライフ、海外移住ライフ」とは対極にあった。
だからこそ、この本に登場する人物やできごとの「普通さ」「無意味さ」が深く刺さったのだと思う。
この世の大部分はモブや、モブが紡ぐ面白みもないストーリーで構成されている。
それに気づいたことで、一気に楽になった。勝手に背負っていた荷物もどこかへ行った。
ちょっと卑屈な言い方をするが、モブの一人である自分が留学に行ったところで、歴史に名を残すような成果をあげられるわけがない。
あげる必要もないのだ。
「留学する意味・理由を探す人」におすすめする理由
私がこの本を「留学する意味・理由を探す人」にすすめるのは、私と同じように、この本を読むことで心を軽くできる人がいると思ったから。
留学というと、どうしても「人生における一大イベント」「歴史に残る大冒険」のような気がしてしまい「何かをなさなければ」という焦燥に駆られてしまう。
「何かをなさないことは罪」とも思える。
少なくとも私はそうだった。
でも考えてみてほしい。
数十年前とは違い、今や海外旅行も留学もお金があれば誰でも行けてしまう時代。
家族や大切な人と離れても、スマホ一つで顔を見て通話ができる。
留学の「かけがえのなさ」は薄れている。
(個人ベースではなく、昔と比較してという話)
よって留学自体がそんなに気合いを入れて、肩肘を張って成し遂げる対象ではなくなりつつあると思う。
昔より平均寿命も伸びている。人間は、良くも悪くも結構長く生きられるようになった。
だから失敗したら、また挑戦すればいいだけの話。
もちろん、もう二度と留学はごめんだ、と思って日本に帰ったっていいし。
それすらも自由なのだ。
この本に登場する人々は、物語の主人公ではないし、
何か世の中にとって価値のあることを成し遂げたわけでもない。
でもそういった成功体験でも失敗体験でもない「ただの出来事」が無数にあって、人の一生が構成されている。
ドラマや人の成功体験を見ていると感覚が麻痺してくるが、これがマジョリティの世界。
繰り返しになるが、その事実を知ることが、留学する意味や理由を探す人の心の救いになるのではないかと思う。
自分や自分のやることを、必要以上に大きく、壮大で、立派なものに見せなくていい。
例えばこんな留学があってもいいわけだ:
- 苦労して学校に入学したのに半年もせぬうちに退学した(筆者の経験)
- 友達も作らずに、ひたすら景観の写真を撮った
- 色々なスーパーを渡り歩いて珍しい食べ物を買い漁った
- 近所の公園でぼーっとして道ゆく人を眺めた
- 新しいことに挑戦していないから、なんの失敗も挫折もせずに帰国した
それをダメだとか、もっと生産的な留学をすべきだとか決めつける権利は誰にもない。
強いて言えば、誰かに多額のお金を出資してもらっている場合は例外かもしれない。
誰かが苦労して用意したお金を使っているのなら、出資者の好意を無駄にしないような行動を取った方がいいのかもしれない。
それでも極端なことを言えば、それすら本人の自由なので期待を裏切っても良い。
出資者は留学者に何かを期待しているのかもしれないし、全く期待をしていないのかもしれないしね。
「留学する意味・理由」を探しているならこの本を読んでみてくれ
あなたが抱えている「重圧」はどこから来ているのか?
「留学で失敗してはいけない、誰かの期待に応えなくては」と苦しくなっているならば、ぜひこの本を通して多様な生き方を知ってみてほしい。
しつこいようだが、留学する意味や答えはどこにも載っていない。
ただ、意識を「自分自身」から「他人の人生や考え方」へ向けることで何か気づきが得られるかもしれない。
そう言った意味で、書籍は時に思いもよらない効果をもたらすのだ。
MEZ